ウインドリバーの最高技術責任者(CTO)、ポール・ミラーが、英国ウィンザーで開催された2022 DSP Leaders World Forumに参加し、5Gコアのロールアウト やvRANなどに関する質問に回答しました。本ブログ内容は、ホストであるTelecomTV編集ディレクターのレイ・ル・メイスター氏との対談のハイライトをご紹介します。2部構成となっており、今回はパート1になります。また、DSP Leaders World Forumのディスカッション動画はこちらからご覧いただけます。
レイ:5Gコアのロールアウト が予想より少し遅れている理由について、何かご意見はありますか?
ポール:5Gコアのロールアウトは、5Gコアを利用するユースケースに大きく左右されるため、予想より少し遅くなっているのではと思います。多くの人が4Gの帯域幅で十分だと考えていたコロナ禍を経て、ネットワークのロールアウトがやや遅くなっています。
また、コアはエッジコンピューティングによってドライブされることも分かっています。5Gコアは、Cバンドやミッドバンドのデプロイ、およびネットワークスライシングなどの高度な機能を利用するユースケースの実現に大きく依存しています。デプロイメントの観点からはまだそこには至っておらず、これらのサービスの導入にはもう少し時間がかかると思われます。
エッジでの仮想化の役割と、それがアプリケーションでどのように作用するかを考えると、エッジやOT(運用技術)ドメインだけでなく、ネットワークスライスの使用も可能になるかもしれません。これが本当に重要な役割を果たすことになります。そして、これらが、5Gコアの真のニーズを実現する原動力となるのです。しかし、残念なことに、そこに到達するまでには時間がかかります。
レイ:仮想化RANは大きなビジネス機会につながりますか?
ポール:仮想化RANは、業界にとって興味深い機会であります。業界では、エッジでのデプロイ方法について、ちょっとした論争が生じています。ネットワークを構築するために何十年も使われてきた従来のアプライアンスベースの手法と、ネットワークのエッジ上でクラウドネイティブの原理を使った新しい仮想化コンピューティングの手法の両方が存在していることです。それぞれの進化とともに、5Gコアやそれが実現しない理由、ネットワークスライシングが行われない理由などが語られるようになっています。例えば、停止した製造現場、エネルギーグリッドの管理、ドローンによる配送システム、そして自動車分野などでは、エッジコンピューティングの出現を促進する実際のユースケースと、ネットワークスライシングや5Gのスタンドアローンコアのユースケースについて話題になり始めています。
米国のベライゾンと行っている仮想化RANは、非常に高度なスケーラビリティを持つネットワークとして、実運用されてきました。英国のボーダフォンとのO-RANの取り組みと同様に、これらの通信事業者はネットワークの構築方法を選択することができます。レガシーアプローチを選択した場合、これらの新しい収益を可能にするアプリケーションをネットワークのエッジにデプロイし、5Gのスタンドアローンコアとコアからエッジまでの制御を可能にするネットワークスライスを利用することは困難となるでしょう。ネットワークのエッジには演算能力が必要であり、それが5Gネットワークの構築方法を決断する方向づけになります。
ネットワークのエッジを仮想化するビジネスケースは、vRANやO-RANによってのみ推進することができ、TCOを適切なレベルにすることができれば、素晴らしいことです。ウインドリバーは、スケーラビリティ、管理、自動化、オーケストレーションなど、適切なレベルのパフォーマンスの実現により、それが可能であることを証明しました。
レイ:これらのシステムを構築する上で必要な資産は何でしょうか?
ポール:プライベート5Gやマクロネットワークに、これらのシステムを構築するための資産を供給するソフトウェアベンダーとして、ウインドリバーが見ているニーズの1つには、ライフサイクル全体の管理があります。ライフサイクル管理はブループリントの一部であり、ソリューションの全てではありません。サービスプロバイダは、5Gを企業に完全に導入するために、非常に大きな課題を抱えています。ウインドリバーは、開発、デプロイ、運用、サービスをライフサイクルマネジメントの4つの象限として考えています。開発側では、これらのサイクルの中で稼働するアプリケーションを構築します。DevSecOpsのツールチェーンと、バーチャルツインを作成するシミュレーション機能があれば、これらの運用上の懸念を最小限に抑える環境を構築することができます。
それと同時に、開発、デプロイ、運用、サービスの環境において、AI、機械学習、分析、データ収集などのソフトウェア自動化は非常に重要です。これは、パブリッククラウド、プライベートクラウド、ファーエッジにまたがってデバイスまでに広がるソリューションです。そこで、統合されたソフトウェア環境全体にまたがるソフトウェアアプリケーションを構築することになるのです。このような種類のアプリケーションで成功したい場合は、これらの環境をデプロイ、管理、および運用を可能にするOTAアップデート、管理機能、および運用ツールが必要不可欠です。そうでなければ、リスクが非常に高くなり、テクノロジーの移行が難しくなります。
レイ:ウインドリバーやウインドリバーの顧客と新規またはスタートアップ企業との関わり方に変化はありましたか?
それは、「これからも続く」「もっと良くなる」と考えていますか?
ポール:複雑ではありますが、ウインドリバーや当社のお客様における新しいお客様との関わり方に変化が見られました。すべては、サービスプロバイダとのパートナーシップにおける新しい機会を中心としたイノベーションとサービスの構築にかかっています。お客様を第一に考え、お客さまが抱えている問題を解決することは、非常に重要です。イノベーションは、お客様に関連し、お客様独自の能力を活用する方法に焦点を当てるべきです。サービスプロバイダの場合は、ネットワークサービスと接続性に大きく関わるものである必要があります。
お客様とのパートナーシップを見ると、そこにイノベーションが表面化し始めています。例えば、OTの分野ではエッジへのコンピューティングのシフトにより、アプリケーションが登場し始めています。2026年までにコンピューティングの70%がエッジで行われるようになるという業界データもあり、これは驚異的な成長分野です。これらのOTシステムは、過去にはなかったハイパーコネクテッド状態になりつつあります。つまり、サービスプロバイダは、V2V(車両間通信)、V2I(路車間通信)、ドローン配送システム、遠隔医療など、接続性が必要な分野で何らかの価値を創出する役割を担っているのです。ネットワークスライシングによって、これらはサービスプロバイダだけが実現できることです。これらのサービスの周辺に適切なイノベーションを見出すこと、つまり技術ロードマップの中でそれらを提供する適切なタイミング、そして人工知能や機械学習、ネットワークを管理するための高度なソフトウェア自動化を用いて、どの技術の主要コンポーネントを利用するかが重要なポイントになります。そこには多くのイノベーションの機会がありますが、常に顧客中心主義を念頭に置きながら、それを実行していかなければなりません」
このインタビューの後編(パート2)は近日公開予定です。