今日の産業ロボットは、定型作業の遂行にとどまらず、認知機能をもつ協働ロボットへと大きく変貌しています。 ロボットは、製造現場の様々な機械、人間、それらが動的に融合するデジタル環境でシームレスな工程を実現するための中核要素となりました。イタリアのトリノにある工場では、重さ3トンのロボットアームが人間の肌感覚と同様の触覚をもつ「皮膚」を使って物体を検知し、減速や停止などの判断を行い、内蔵の3Dカメラでピッキング対象部品を認識して適度な力加減で掴みます。また、高度なレーザースキャナーを使って作業中の空間を監視し、人が近づくとロボットに注意喚起します。1
アフェクティブコンピューティングの発展に伴い、人間とロボットが密接に関わり合う時代がすぐそこまで来ています。 ウインドリバーの最高製品責任者(CPO)であるキーラ・リチャードソンは「今はまだ、決められた環境でセンサーを通じて感知した情報にソフトウェアやハードウェアが反応する、というごく初歩的な段階です。ロボットが人間の感情への反応を繰り返し学習し、人間の視覚、動作、平衡感覚、聴覚、触覚の進化の概念が技術的に紐解かれていくと、認知機能の仕組みをより深く理解できるようになります。ロボットのセンシング機能はさらに発展し、自動化技術のエコシステムが拡大するでしょう」と述べています。
また、ありとあらゆる場所から情報を収集・分析する「スマートダスト」と呼ばれる砂粒大の極小センサーを使うと、監視可能な範囲も拡大します。これらを人体に埋め込むと、疼痛管理や難病の治療に役立てることができます。スマートダストを都市全域に張り巡らせて振動レベルや温度、磁場/電界を監視することで、スマートシティの基盤としても活用できます。
こうした技術革新は、製造現場や宇宙衛星などの制御された環境で運用されている自動化技術のエコシステムが進化し、無秩序で予測不能な環境にも適応できるようになるでしょう。たとえば、交通量の多い道路での自動運転や、混みあった歩道で体が不自由な人の通行を支援するヒューマノイドロボットなども実現できます。
COVID-19の世界的流行により、レジリエントなサプライチェーンの構築や作業者の安全保護が急務となった今、ロボットの認知能力はすでに必要不可欠なものになりました。物理的な接触制限を受け、製造現場で人間とロボットが切れ目なく連携する自動化フローが続々と導入されています。物流倉庫では、コボット(協働ロボット)が人のすぐ横で作業し、注文書の読み取り、商品のピッキングや梱包、出荷などの作業を効率化しています。ペンシルベニア州ウィルクスバリにあるDHLの物流施設2ではこれまで、作業者1人あたりのピッキングスピードは1時間平均70~80個でしたが、作業者をアシストするコボット群を導入してからは、1時間150~180個に改善されました。
マッキンゼーの調査によると、高度なロボット技術は、2025年までに世界全体で最大4.5兆ドルの経済効果をもたらすと予想されています。3また、ResearchMarketsの調査では、作業者と協働するコボットの市場は、2026年までに毎年平均45%のペースで成長する見込みです。国際ロボット連盟は先日、「COVID-19に伴う需要の高まりが主因となり、サービスロボットの販売額が全世界で32%増加した」という報告書を発表しました。4
業務用サービスロボットのなかでも、とくに売上成長率が著しいカテゴリは物流ロボットです(前年比110%増)。こうした自律移動型ロボットはもともと倉庫内で使用されていましたが、製造業のデジタル化に伴い、スマートファクトリーの一部として急速に普及しました。また、コロナ禍の今、ロボット手術システムの需要も急増しています。医療用ロボットの販売額は2022年までに現在の2倍以上になる可能性があります。
1 "Robots Partnering with Humans," Robotics Tomorrow, December 2020
2 "DHL – High Performance Warehouse and Retailer Picking," Locus Robotics, September 2020
3 "Disruptive Technologies," McKinsey Global Institute, May 2013
4 "Service Robots Record: Sales Worldwide up 32%," International Federation of Robotics, October 2020
5 "Collaborative Robots Improve Quality," Quality Magazine, April 2020
大型の6軸産業用ロボットは、自動車工場などで、身体的負担の大きい反復的な作業を行うために使用されています。通常は架台に固定されていますが、アーム部分は可動域が広く、全方向に大きく動くことが可能です。
各ロボットには、ロボットが全方向に到達可能な限界まで、センサーによる境界や感知範囲が設定されています。
これらのロボットは、隔離された専用スペースではなく、さらに近距離で人間と協働するケースが増えています。
センサーの感知範囲に人が侵入すると、アームを折りたたんで安全な位置に格納し、作業者を保護します。
ウインドリバー
最高製品責任者(CPO)